疲れたんですか、






そういう訳でもない。















「この熱さじゃやる気起こんねー」


「そうですねぇ…少し休憩しますか、」

持っていた筆を置いて、汗を一つもかいていない顔を向けられた。


ジージージージー。


蝉がところかまわず大合唱。

京の蒸し暑さにますます拍車をかける。

こんな気候でよく彼があんなに涼しげにしていられるのか不思議でしょうがない。



「あんた暑くねぇのか、」


「暑いですよ」


「そうは見えねぇけど」


不機嫌そうに云う。

まるでこの暑さが全部山南のせいだと云いたげな雰囲気。


「あまり、暑さのことを考えなければいいんです、」


「あ?」


「何か気をまぎらわす方法…例えば読書とか、さっきみたいに仕事をするとか」


「んなの、無理」


即答した。


すると、しょうがないですねぇ、と云った感じで山南が見るから、つい唇を尖らせてふてくされる。




二人でいる時、土方はたまに甘えたように山南に接っしてくる時がある。

最初は面食らったが、いつの間にか慣れてしまった。

滅多に見せない鬼の副長の素顔を垣間見れた気がして、嬉しかったのだ。



「では、ちょっと横になられたらどうですか」


そう云って得意の仏のような笑みを浮かべる。


「この間のようにしてさしあげましょうか、」




「…いいのか」


「構いませんけど」


「…」



無言で山南の方に歩み寄ると、山南も黙って文机を脇に退けた。

怒ったような、真顔のような表情でゴロリと寝転がり山南の膝に頭を載せる。

土方の結った髪が崩れてしまわぬよう、少しだけ頭をずらしてやる。

それから後ろの柱に立掛けてあった鉾の描かれた大きめの京うちわを手慣れた仕草で持った。

ゆっくりと、子供を寝かし付けるようにうちわで涼を送る。

土方は猫にでもなったような気分で、相手の膝にちょっとだけ鼻を擦りつけた。

墨汁の匂いがした。

そのまま送られてくる風を感じながら照りつける太陽のせいで歪んで見える縁側を見つめた。

さっきまで蝉の音しか聞こえないと思っていたが、こうすると風鈴の音がやけに大きく聞こえる。

イライラしていたのが嘘みたいに、心地よくまどろみ始めた。

やはり暑さも気の持ちようなのか。


チリリ、と涼やかな音と共に優しげな手付きで後ろ髪を結かれて、


土方はゆっくりと目を閉じた

















「土方さん、」






肩を揺すられて視界が鮮明になる。

蝉の音など、もう聞こえなかった。


「こんな処で寝てると風邪、ひきますよ」


「ん、…」


膝、ではなく文机にうつ伏せて眠っていたようだ。

ぼんやりとする頭を揺すって目をしばたかせる。


瞼の裏に、彼の残像がまだ残っている気がして。


立ち上がった沖田がそっと開いていた障子を閉めた。



枯れ葉の赤や黄色がハラハラと舞っていたのが見えなくなり、部屋に陰がさす。






彼の人は、



もう此処にはいない。












       
のこり香














   
久々にパラレル以外の土山書いたー。
   ありきたりネタだなァ。。。












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