「やっぱり今日の土方くんは何か違う」


風呂を入れ終えてからリビングに戻り、それから数時間前まで酔っぱらっていた彼を思い出して

コップに水を入れて持っていってあげた。


手渡すなりいきなりそう言われた。











        
記憶のかけら  3














「…そうですか…?」


ちょっとドキドキしながら尋ね返す。

この場合、うまくはぐらかすしかない。

だって説明するとややこしくなりそうだ。

山南さんは受け取ったコップを両手で持ったまま少し考えたように間を置いて。


「私に敬語使うことは滅多に無いですよね、二人でいる時は特に」

そういえば、土方はあまり敬語を使わない人間だ。

山南さんには特に偉そうにしゃべっていることが多い。

「それに…」

「………」


「なにか、優しい…です」


ふっと頬を染めて見上げる彼に心臓が思わず弾け飛んだ。

ドッドッドとハムスターの心音みたいに速く動きだす。



うっわ。

このひと…



可愛い。

堺さんってこんなに可愛いかったっけ…。

ほんとに三十路オトコかよ。

っつーか、俺今顔赤いかも。


「俺そんなにいつもあんたに対してイジワルしてますか、」

「意地悪というか……誰に対しても余計な優しさはいらないと思っているでしょう、君は」


まあ確かに。


「ところで山南さん、」

「はい、」

「ソファで正座はしなくてですよ」

「は?」

















「はぁ〜。」

テレビを付けて、滅多に見ないような深夜番組を見ているとリビングのドアが開いた。


「お先にお湯頂きました。土方君もどうぞ、」


頭から湯気をホコホコ出して、ほんのりピンク色に頬が染まった彼は湯上がり美人だと思う。

一瞬見惚れてしまった自分には気付かないフリをした。

さっきから自分がオカシイことには薄々感づいてはいるのだけれど。

何か、見て見ぬフリをしたかった。

いまのところ。



「あ、入ります」

「…これは何ですか、」

「テレビ」

「てれび…」

「あ!!」

「な、なんですか?!」

急に山南さんが大声を出すから吃驚した。

山南さんはテレビ画面を指さしている。

「…近藤さん?」

そういや丁度スマステーションを見ていたんだ。

「近藤さんはいったい何を・・・」

あっはっはっはっは〜、と大口を開けてバカ笑いをしている近藤さんなんて見るのはたしかに珍しいだろう。

マズイ。

そう思って慌ててテレビを消す。

「あーええと、今のは近藤さんのそっくりさんです。すげえ似てるでしょー!!ははは!」

誤魔化すように笑って、山南さんの視界からテレビを無くそうと彼の肩を押してベッドに座らせる。


「そっくりさんにしては声も……」

「山南さんは今日はここで寝て下さい。俺、ソファで寝ますから!」

彼の疑問符をさえぎるように早口で捲し立てる。

「…でもここは土方君の家だろう。家の主を差置いてそういうわけには…」

「いい、いい。そんなの気にしないで下さいって。じゃ、俺風呂入ってきますから」

「あ、待って。土方くん」


部屋から出ようと思ったら呼び止められた。

山南さんは言いにくそうな顔でこっちを見ている。


「何、」

「あ…えっと…私は起きていた方がいいのだろうか…」

この人はなんでこんなことを俺に聞くんだろう、と一瞬思った。

山南さんってここまで人に気を使う人だっただろうか。


「あー別に先に寝てくれていいっすよ」

「だって…今宵もまた、…スるんだろう…?」

「するって、何を…?」

「君はよく、その……そういう時の前後には優しいから…」






……はぁ?!


ちょっと待て。

土方と山南ってそういう関係なわけ?!

まじかよ……………








「すいません、今のは聞かなかった事にして下さい」


俺が返事に困っていると、彼はサッと顔を背けてしまった。


「あ、いや、ごめん!山南さん、嫌とかそんなんじゃなくて…」


焦った俺は彼の腕を掴んでつい勢いよく振り向かせると、彼の顔は真っ赤に染まっていた。


「驚い…て…」


言おうとして言葉に詰まった。

山南さんは照れているのだ。

俺ともあろうことが、気付かなかった。

これは彼なりに誘っているのだ。


「顔赤い…」

つい思ったことを口に出してしまうのは自分の悪い癖だと思う。

山南さんはそれを聞いて益々顔を赤くしている。

既にもう、りんごちゃんの域だ。


「ちょっとのぼせてしまっただけですっ」


「…山南さん」


「あ、あっち行って下さい!!」


イヤイヤと首を横に振って抵抗する彼を、思わず衝動で抱き締めてしまった。


自分の行動に内心驚きつつも、どこか冷静な頭で彼の華奢な身体つきを確認しては。

身体中の血液が逆流しているんじゃないかと思うほど心臓が音をたてて動き出す。


洗い立ての濡れた髪からは自分と同じシャンプーの匂い。

ジャストサイズですっぽりと腕に収まる身体。

大きめのシャツから覗く、透き通るような白い項。


理性という壁が勢いよくぶち壊れ、見て見ぬふりをして抑えられていた彼への想いが一気に溢れ出した。





「山南さん…!!」


そう叫んで、その場に彼を押し倒した。



































「…ぅ、ん…」



カーテンの隙間から覗く光が眩しくて目を開けた。

二日酔いのせいか頭がやたらにガンガンして痛い、と寝ぼけ眼ながらも堺は思った。

いつのまにベッドに入ったんだっけ、と思い出そうとしながら意識を呼び戻そうすると。

大きな掌が目の前に見えて、誰かの腕に頭を載せている。


「?」


振り返ると隣には眠っている同じ俳優仲間の山本耕史がいた。





「ぎゃああああああっっ!!」



堺は飛び起きた。

全裸のままで。

さすがに側でそんな声を出されれば、普段起きるのが苦手な山本も目が覚める。


大きな少し腫れぼったい目を瞬いて、ゆっくりと目の前の男を見た。


「…おはよぉございます…」


いつもの端正な引き締まった顔がふにゃふにゃに崩れて笑いかける山本。


「お、おはようじゃないよ…いったいどういうこと、耕史くん…!」


「あれ、戻った?もしかして」


山本はそう言いつつふぁ、と大きな欠伸をした。


「何が…?!」


下着すら履かずに全裸で寝ていた自分。

しかも隣には同じく全裸の山本がいて混乱気味。

それを落ち着かせるように山本は起き上がると冷静な顔で堺に話した。

窓の外では小鳥がちゅんちゅんと爽やかに朝を知らせてくれている。


山本は説明するのも面倒なので、“酔った勢いで”ということにしておいた。

不思議ともう堺が山南には見えなかった。

なんとも寂しいというか、残念というかそんな気分ではあったが、彼はある発見をしていた。



俺、堺さんのこと好きなんだ。

もちろん山南さんの堺さんが一番好きだけど。

やっぱり堺さん本人にも恋してるわけで。

上手く言い表せないけれど、とにかく彼が好きなんだ。




「堺さん、」


ゆうべ呼んだ名とは違っていたけれど、もう一度想いを込めて彼の名を呼んだ。



「勢いだったけど、俺あなたのこと好きですから。」




「こう…じ君…」










「俺たち付き合いましょ、」














  おわり。




































   えっちシーン飛ばしてしまった…
    別に書かなくてもいっか…と思って(笑)
    ふざけた設定に付き合って最後まで読んで下さった方、本当にありがとうございます。

  














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