「沖田さん、あれ見はった?」
「あれって…何、」
ひでの問いかけに興味の無さげな顔で返答する沖田。
「沖田さんってば、あれに気付いてへんの」
「だからあれ、って何、」
ひでの言い方に少しカチンときたらしく、沖田は尚もさっぱり判らない表情で横に座っているひでを見る。
「斎藤さん、首に何か付いてますよ」
沖田とひでがそんな遣り取りをこそこそしていると、後ろで斎藤にそう告げる藤堂がいた。
「…?」
斎藤は例のごとく日のあたる縁側に座って訳のわからない彫り物をしている手を止めると
指摘された首にゆっくり触れる。
あーあ、と額に手を当てて顔をしかめるひではデリカシーの無い藤堂を呆れたように見つめた。
彼のあと。
八木邸のとある一室で沖田と藤堂とひでは、彼女がいれたお茶をすすりながら話をしていた。
話題は斎藤の首筋に残るくっきりとした接吻の痕について、である。
「誰が斎藤さんをにあれを付けたんでしょうか?」
片手で湯呑みを置きながら、学問について語るように真面目くさった顔で藤堂は口を開いた。
「そんなん決まってます。斎藤さんに接吻の痕を付けて良い人なんてあの人しかいいひんでしょ」
「おひでちゃんは誰か見当が付いてるんだ。私は全く思い当たらないけどなぁ」
「私も思い当たらないです」
「居はるじゃない一人、斎藤さんがいーっつも見つめている人が」
「近藤さんですか」
「…平助、自分で言ったこと想像してみなよ」
「近藤さんと斎藤さんが絡み合ってるところなんて想像しただけで…」
「想像しただけで?」
「…なんでもないです」
「近藤さんにはたしかに心開いてはるとは思うけど、あの人じゃないです」
「じゃあ誰なの、他に斎藤さんが警戒しないで気を許している相手って」
「首の襟元に見えるか見えないかの微妙な計算で付けられた几帳面さを見て、ほんまに二人とも判らへんの?」
「土方さんは、案外几帳面だよ。あの人って昔っから妙なところで細かいし、神経質だし」
「そういえば土方さん、江戸にいた頃に比べて女性関係の噂、あまり聞かなくなりましたよね」
「斎藤さんのこともお気に入りだし」
「絵面的にも合うけどさぁ、」
「女王様と犬って感じですよねぇ」
「尻に敷かれてそーっっ」
きゃっきゃっと口々に言う二人をひでは冷めた目で睨み付けた。
(男ってなんでこんなに鈍感やの。沖田さんだけやなかったんや。)
「…違うの、」
「違います」
「じゃあ、誰なんでしょうね? 斎藤さんの恋人って」
「案外、意外な人だったりして」
「例えば?」
「そうだなぁ、源さん…とか?」
「え〜有り得ませんよぉ。沖田さんこそ自分で想像してみたらどうですかぁ」
「だよねえ」
「だいたい斎藤さんに本当に恋人なんているのかなぁ。だってあの人無口だし無愛想だし。
一緒にいても会話弾まないしさぁ」
「でも、前にみんなで島原に行った時に斎藤さん私達よりモテてませんでした?
ああいう無口で陰のある男性って結構女性から人気があるんじゃないでしょうか」
「そういえばそうだ」
「ふーん。沖田さん達、島原によく行ってはるんやぁ」
「…あ、えーっとほら、あの時はたまたま原田さんとかに誘われちゃって無理矢理…ねぇっ?!平助」
「は、はい!決して楽しんで行った訳じゃ…」
「あっそ、」
目を細めたままひでは二人を見た。
「でも斎藤さんのお相手は遊女なんかや無いはず。だいたいあの人に馴染みの遊女を持つほどマメな
性格や無さそうやもん。女はもっと手がかかるんです」
なるほど、と力説するひでの言葉に男二人は頷いた。
「手のかかる女の人は無理ってことは、やっぱり身近な人間か」
「二人ともまだわからへんの、」
この鈍感な男二人がその言葉に同時に首を捻った時。
「………そんなに俺は無口か、」
頭上から聞こえてきた低い声に一同が一斉に固まる。
何ともいえない悲しそうな目で3人を見つめる斎藤を見上げ、3人とも引きつった微笑みを浮かべた。
「結局、斎藤さんの首の接吻痕って、誰が付けたの、」
藤堂が当番の見廻りで頓所を出て行った後、こっそり沖田はひでに尋ねてみた。
「……教えて欲しい?」
白い歯を見せて微笑みながら言うひでに手を合わせて頼み込む。
最初とは打って変わって真剣に気になっている沖田。
「教えてよ、おひでちゃん!」
「ほんまに判らへん?」
「さっぱり」
更に含み笑いのひでに焦れたように教えてとせがむと、やっぱり教えなーいと言われてしまった。
そんな二人の会話も知らず、時を同じくして玄関で見廻りから戻った人間を出迎える斎藤の姿があった。
「…あの、山南さん…今夜も、そっちに行っていいか…?」
おわり。
初おひでちゃん。組!のへーと沖田との三人のシーン、ほのぼのしていて好きでした。
Man&Womanにちょっと似てるかも。
局長とハジメだったらどっちがどっちなんでしょう。
…副長とだったらハジメが攻かな。